Extra.闇は密やかな一夜を覆い
+この話は、THIRD LOVE、「03.熱は思考をかき乱し」のアレア山脈での一夜です。
シェドたちの行く道は、アレア山脈の中でも比較的整っている道ではあったが、さすがに一日で越えられる距離ではなかった。日は橙の光を残してとうとう沈み、周りの木々はそれに比例するように暗闇に包まれていく。
山の中にはまだ、シェドたちと会った盗賊の仲間がいるため危険ではあったが、進むべき道も見えず、慣れない森の中を進んでいくのは得策ではないと分かっていた為、シェドたちは一度休憩をとることにした。
居場所を知らせてしまうので焚火は出来ず、シェドはクォルファを膝の上に抱え、その上から毛布を被って木にもたれかかる。
「寒くない、クォルファ?」
「心から暖める方法を教えようか、シェド」
暗闇の中で、クォルファが笑う気配がする。身体を抱え込んでいるために、クォルファの吐息が首筋にかかってくすぐったい。シェドは熱くなった頬を誤魔化すようにクォルファの髪に摺り寄せる。
「………僕は、もう十分、熱いよ」
拗ねたように呟けば、クォルファはそれを見越していたのか、笑みの滲んだ声で「私もだ」と返してくる。
「シェドへの熱が冷めることは、まずないからな」
言葉と同時に鎖骨に口付けられて、シェドはびくり、と肩を揺らした。押し当てられたままのクォルファの唇が、弧を描いた気がする。それが悔しくて、シェドは必死に平静を装い、クォルファの黒髪を梳く。まっすぐでさらさらな黒髪はするするとシェドの指をすり抜けていって、まるで髪にもからかわれている気分になった。
「僕の熱が冷めたら、どうするの?」
何かを言い返したくて、気付けばそんな言葉を口走っていた。言い切ってから、僅かの後悔と答えを聞いてみたいという期待が、胸中で交差する。
クォルファはしばらくの間をあけた後、くすくすと微かな笑い声を立てた。
「そのときは、私の熱で焦がすまでだ」
挑戦的にそう言って、クォルファが伏せていた顔を上げる気配がした。クォルファを見下ろしていたシェドは、自然と、暗闇を挟んでクォルファと見詰め合う形になる。そっと、シェドの頬に手が添えられた。
「冷める前に、私が焼き尽くしてあげよう」
ゆっくりと近づいてきた唇を、シェドは抗うことなく、首を傾けて受け止める。触れ合う唇は、外気の冷たさに反して火傷しそうに熱かった。
「………熱源がこんなに近くにあったら、僕には冷める暇がないよ」
唇を離し、クォルファを見下ろすシェドの瞳には、クォルファの熱に煽りを受けた炎が静かに灯っている。返すクォルファは、その視線を受けて艶やかに笑んだ。
「それは重畳だ」
再び二つの影が重なり、闇はその色を濃くする。
アレアの山脈の夜は、静かに更けていった。
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