諸家知見
和久田氏
虚勞は病名なり、然れども古人の名を命ずる、一も證に取らざるものなし、虚は場所ありて其内に物なきをいう、皮骨は場所なり、其内に實(みつ)べき物は血肉精液なり、今精液肌肉をうるほさずして、血も亦流動の勢すくなく、肉ひすばり、筋引きつりて、顔面血色なく、薄白げて、但皮骨を存して、其内にみつべき物なきを以て、名けて虚という、證に曰う、男子面色薄者、渇及亡血を主る、卒に喘悸し脈浮なる者は裡虚也と是れなり、亡も、亦あるべきもののなきものになりたることにて血のひすばりかわくの謂なり、勞は、つかるるなり、血その肉を栄えず、精その骨を守らざれば、虚熱骨髄にいりて、手足の心(うら)熱し、四肢だるく痛み、夢に精をもらし、手足削るがごとく痩せて遠く行くこと能わず、名けて勞という所以なり、裏急の裏は、即ち表裏の裏にて、皮膚の裏手にてひっぱるなり、筋脈の事なり、悸は、乃心中悸なり、む子の内だくだくとおどるなり、衂血は鼻血なり、衝逆するによるなり、腹中痛は、裏急によるなり、夢に失精は、もうざうなり、精は静にして内を守るものなり、今内虚して守を失う故、夢に失するなり、下焦の虚なり、手足煩熱は、手足の心ほめきあつくしてこころあしきなり、?痛は、やせすばりてだるく痛むなり、咽乾口燥は血気衝逆、虚熱の候なり、口舌乾燥とはちがうなり、口舌乾燥はといへば、胃中の實熱によるの候とす、故にわざと舌を除て、咽乾口燥というなり、乃ちただ咽口中のはしわぐことなり、總て是れ虚勞の證なり。
為則
常に腹中拘急の証あるべし。此の方、芍薬甘草揚に類するなり。
方極
裏急し、腹皮拘急及び急痛する者を治す。
方機
腹中急痛し(応鐘)或は拘攣する者は此れ其の正証なり、若し外に閉の証あれば則ち此の湯の主治する所に非ず。
衂し(解毒)失精下血(応鐘)の人腹中攣急し或は痛み、手足煩熟する者。
産婦にして手足煩熟し咽乾き口燥ぎ腹中拘攣する者(応鐘)若しくは塊ある者(夷則)。
心悸し或は肉潤筋し或は頭眩する者(応鐘)心悸甚だしき者(解毒)茯苓建中湯之を主る。
腹診配剤録
胸中煩悸し、心下より臍下に至るまで鼓皮を撫づるが如く、棒二本の横はれるが如し。此則ち拘急也。
傷寒六書
汗を発し、又復って之を下し、悪寒、発熱(虚熱)し、休止する時無き者は、小建中湯に宜し。
類聚方廣義(尾台榕堂)
虚勞裏急云々、此症に余は毎に黄耆建中湯をを用ゆ、其効小建中湯に勝る学者之を試みよ(余曰く此説是なるが如し)。
類聚方廣義 (尾台榕堂)
金匱要略黄疸篇に曰く男子の黄、小便自利する者、小建中湯を與うべしと按ずるに、小便自利と不利とは其常を失するに至りては則ち同じ、桂枝加黄耆湯症に曰く黄汗云々小便不利と是に因て之を観れば虚勞小建中湯は疑うらくは黄耆建中湯を謂うならん、又按ずるに深師黄耆建中湯症に曰く虚勞云々小便多しと、必効方の黄耆建中湯症に曰く小便数と、曰く多曰く数、是れ亦常を失する者なれば益以て徴とするに足る、故に余は黄耆建中湯を用ゆるなり。
(湯本曰く此説是なるが如し。)
蘇沈良方
此薬腹痛を治すること神の如し、然れども腹痛之を按すれば便ち痛み、重按すれば却て甚だ痛まざるは、此れ是の気痛にして、重按して愈痛みて堅きものは、當に自ら積あるべきなり、気痛は下すべからず、之を下せば愈甚し、虚寒證なり、此薬偏に腹中虚寒を治し、血を補い尤も腹痛を治す。
(湯本曰く此説は金匱の病者腹満之を按じて痛まざるを虚と為し痛む者を實となすに基ずきしものにして能く之を拡充せり)。
證治準縄(じょう)
痢を治す、赤白久新を別たず、但腹中大痛する者に神効有り、其脈弦急或は澁浮大にして之を按ずれば空虚、或は擧按に皆力無きもの、是れなり。
張氏醫通
寒飲冷の咳嗽腹痛にして脈弦を兼ぬる者は、小建中湯に桔梗を加えて肺気の陥を提ぐ。
勿誤薬室方函口訣
此方は中気虚して腹中の引はり痛むを治す、すべて古方書に中と云うは脾胃のことにて、建中は脾胃を建立するの義なり、此方は唯血の乾きて俄に腹皮の拘急するものにて強く按せば底に力なく譬ば琴の糸を上より按すが如きなり、積聚腹痛などの症にてもすべて建中は血を潤し急迫を緩むるの意を以て考え用ゆべし、全体腹ぐさぐさとして力無くその内にここかしこに凝ある者は此湯にて効あり。
古方薬嚢
腹中急に痛む者、その痛み工合は引っ張られるように痛むもの多し。胸の動悸高き者、身体疲れ易く、手足の裏ほてり、時に鼻血を出したり、腹痛したり、動悸したり、手足だるく絞められるように痛みたり、又は唇口中などはしゃぐ者、顔色勝れず、身体痩せ、動悸したり、腹痛みたりして小便の回数多き者などに本方の証多し。しかし、身体肥え、顔色よくして本方の証の者もあり。いわゆる見掛け倒しの体格というべし。
医経解惑論(内藤希哲)
仲景虚を補ふ枢要六方論あり、小建中湯、理中湯、炙甘草湯、桂技湯、腎気丸、四逆湯とし、此候一二を見す者は、何病を問わず、先づ之を用いて効かざるなし、後人多くその旨を識らず、或は一切傷寒腹中急痛の主方となし、或は一切脾虚し寒に中り栄衛和せざるの套方となし、遂に後学にして傷寒腹痛の者に非ずんば用ゆ能わざらしむ、哀しいかな。
小倉重成
腹痛、煩悸、腹直筋の異常緊張ないしは軟弱無力、貧血傾向、疲労倦怠。
漢方診療三十年(大塚敬節)
〇建中は、中を建立する意だと古人は言っている。中は中焦を意味しているから、ここでは、消化機能をさしている。
〇小建中湯は、桂枝湯や桂枝加芍薬湯に類似しているから、これらの用法を知っていることは、この薬方を応用するに役立つ。しかし小建中湯には、またそれ自身の証がある。
〇小建中湯は、体質の弱い人、殊に小児に多く用いられるが、平素丈夫な人でも、無理を重ねたりして、疲れているときには、小建中湯の証をあらわすことがある。だから、やせているとか、血色が悪いとかいうような、外観だけで証をきめてはならない。
〇小建中湯証では、腹直筋が二本の棒のように、臍の両側で、突っ張っている場合もあるが、大建中湯の腹証に似ていて、腹一体が軟弱無力で腹の蠕動運動を腹壁を通じて望見できる場合もある。
〇幼児が風邪、麻疹、肺炎などにかかったとき、突然腹痛を訴えることがあり、この場合に小建中湯を用いてよいか、小柴胡湯を用いてよいか、きめかねることがある。このようなときにはまず小建中湯を用いてみるとよい。
〇結核性腹膜炎の軽症で、腹水がない場合に、小建中湯の証が多い。便秘しているときに、これで便通のつくことがある。衰弱がひどく、盗汗もはげしい場合、黄耆建中湯がよい。腹膜炎でも下痢している場合や、滲出液の多い場合は、建中湯では効のないことが多い。
〇虚弱児童で、よく衂血のでるものに小建中湯の証がある。紫斑病の衂血をこれで止めたこともある。
〇冷え性で、小便が近くて、量が多く、疲れやすいものにもよい。
〇小建中湯証と桂枝加竜骨牡蛎湯の証とが、よく似ていることがある。ともに遺精をしたり、手足がだるかったり、口がはしゃいだりする場合に用いる。
○ヘルニアは小建中湯ばかりでなく、桂枝加芍薬湯で治る場合がある。しかし乳幼児には、小建中湯を用いる場合が多い。
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