三黄瀉心湯(さんおうしゃしんとう)

傷寒論・金匱要略条文

【金匱・驚悸吐衂下血胸満E血病篇】
心気不足、吐血衂血するは、瀉心湯之を主る。

【金匱・婦人雑病篇】
医、反って之を下し、心下即ち痞す。

諸家知見

為則
煎法は当に大黄黄連瀉心湯、附子瀉心湯の法に従うべきなり。
又按ずるに不足を千金は不定に作る。今之に従う。

方極
心気不定、心下痞し、之を按じて濡なる者を治す。

方機
心下痞し之を按じて濡なる者は正症なり。
心気不定、吐血衂血する者。
心煩し心下痞する者。

腹證奇覧 
三黄瀉心湯は心気不定、心下痞するものを治す、不定は心中落ちつかずしてどかどかとし、胸に塞りおどるように覚え手を以て按ずれば却て思うほどに跳ねらぬものなり亦血気の熱あり故に吐血衂血の證あるなり或は痔疾、下血便血等亦あるべし或は狂乱の證あるなり是れ心気不定によるなり或は血気上衝して眼目赤く翳を生じ或は頭項腫熱、口舌の熱瘡、疔?の熱疼、気疾積聚の心悸驚煩、産後の血崩、便秘、脈数、心下痞、衝逆面赤きもの或は小児の丹毒積熱、一切の血熱血気上逆して心煩心悸するもの天行下痢膿血等要するに心下痞、心中煩悸して不定なるものを以て腹證の準據として之を考え用ゆべし證に曰く心気不定、吐血衂血するは、瀉心湯之を主る。  
瀉心は心中の血熱を瀉するの義なり心は血のそそぐところ血は陽気を得て一身に循環す、陽気餘りあるときは血上逆して湧出す吐血衂血を致す所以なり是を以て心気揺々として定まらず常にどかどかとしておどるを覚えて落ちつかず或は驚悸憂惨、甚しきものは狂を発す之を心気不定と云うなり。  
 (湯本曰く此の説の心字には脳髄と心臓との二義あるを看取し得べし其の所在、構造、機能を異にせる二臓を混同立論するは極めて不合理なるが如きも深思熟慮するときは其の然らざるを知るに難からず何となれば若し心力強盛にして悸動疾速を加うるときは動脈系の血量は異常に増加するを以て全身に充血を招来す然るに此の際にありては他臓器組織に比し血管最も豊富にして而も其の口径の大なる脳髄は亦他に比し充血の程度甚大なるべき理にして充血強度なる脳髄は其の弱度なるものに比し之に刺戟せらるること甚しきの理なれば他臓器に先んじ且つ強度に其の機能障碍を発すべきや明なり況んや脳髄は他に比し其の感受性極めて鋭敏なるに於てをや是れ心脳二者関係の密接不可分的なる所以なれば仮令い二者を混同するも事実上に於ては不可ならざればなり。斯の道を学ぶの士は須らく此の観察法に倣い文字の表面に牢執せず其の真相のある所を探知すべし。)

類聚方廣義 
中風卒倒して人事を省せず身熱牙関緊急、脈洪大或は鼾睡大息し頻々として欠伸する者及び省後偏枯、??付遂、緘默不語或は口眼?斜、言語蹇澁、流涎泣笑し或は神思恍惚として機轉木偶人の如き者は此の方に宜し。 
能く宿醒を解すること甚だ妙。 
酒客、欝熱下血する者。
腸痔、腫痛下血する者。
痘瘡、熱気?盛にして七孔出血する者。
産前後血暈鬱冐し或は狂の如き者。 
眼目?痛、赤脈怒張し面熱酔えるが如き者。 
齲歯疼痛、歯縫出血、口舌腐爛、唇風(口唇ヘルペス)、走馬疳(水癌)、喉痺、キン熱腫痛し重舌、痰胞、語言する能わざる者(横割し悪血を去り?液を取るを佳と為す)。 
廱疔内攻、胸膈寃熱し心気恍惚たる者。  
発狂、眼光ケイケイとして倨傲妄語し晝夜牀に就かざる者。 
以上の諸症にして心下痞、心中煩悸の症あるや瀉心湯を用ゆれば其の効響の如し。

用方経験 
按ずるに吐血、衂血、下血及び気逆血暈或は発狂或は癇癖の者は之れが的治と為す。能く心気を鎮め血脈を理するの剤なり(血脈を理するの剤の八字は本方の眼目なり)。故に傍ら心下の鬱熱上衝して眼に至り血膜晴に攀(よ)じ或は胃火上逆、口臭、舌衂、牙疳、歯痔の者には羌活、石膏を加うれば益々妙、余症は大黄黄連瀉心湯と大同なり。 (余曰く石膏を加うれば足り羌活を加うるの要なし。) 

餐英館治療雑話 
此の方は心下痞して大便秘し上気するを目的とす並に一切上焦に蓄熱あり或は口舌瘡を生じ或は逆上して眼目赤き者、皆大便秘を目的とすべし亦痔疾、肛門腫痛し鮮血を下す者に必ず効ありと局方に見えたり、鮮血の鮮字が眼目なり鮮血とは真赤なる色よき血なり都て血症、色の黯淡なるは寒なり鮮なるは熱なり吐血の症に世醫此の方を用ゆるを知れども下血の症に此の方を用ゆるを知らず亦謙斎の訣に辛熱厚味を過食し足脛痛むに効ありと知らずんば有るべからず。 

方與睨 
子癇発すれば則ち目弔口噤、痰涎壅盛し、昏暈省せず時に醒め時に作(おこ)る者を治す。子癇は孕婦、卒に癇を発するなり治方は瀉心湯に宜し或は参連、熊膽汁など間じえ大勢挫けたらば症を視て方を転ずるも可なり此の病に往時は世醫羚羊角散を用ゆれども瀉心湯の単捷なるに如かず。 
経血錯(たが)えて口鼻に出るを逆経と稱しまた錯経と謂う先哲の説に此れ火血を載せて上ると云ういかにも然るべし四物湯に生地黄を用い大黄、童便を加えたる治験を萬病回春載す甚だ理あり。 
此の方は吐血衂血のみならず下血、尿血、歯衂、舌衂、耳衂等一身九竅血を出す者一として治せざるはなし真に血を治するの玉液金丹なり。 
墜打損傷して昏眩人事を省せず及び血出で已まざる者は大に此の湯に宜し金瘡の者は唯此の湯を用いて可なり。 (余曰く墜打の症には桃核承気湯を処すべき場合あるを知らざるべからず。)  

芳翁醫談 
凡そ癇家に数百千證ありと雖も之を治するには三黄瀉心湯に如くは莫し其の眼胞惰にして数瞬し呼吸促迫すること唏(なげ)くが如きの類に之を用ゆれば効最も彰(あらわ)る若し其れ長服せしめんと欲せば丸となして與うるに宜し然れども其の効は稍や緩なり。癇家衝突(卒然として膈を衝き衝心に似て非なるもの)甚しく異證を現す者は辰砂丸に宜し其の自汗甚しき者も亦衝突に因りて然り三黄瀉心湯に宜し甚しき者は加牡蛎之を主る。 
発狂は三黄瀉心湯に如くはなく瀑布泉を兼用するを妙となす。 
小児驚?多くは三黄瀉心湯に宜し若し表證ある者は葛根湯に宜しく痘家は甘連湯に宜し。 
 (湯本曰く小柴胡湯、小柴胡加石膏湯に宜しき者反て多し注意すべし。) 

千金方 
男子五労七傷、消渇、肌肉を生ぜず婦人帶下、手足寒熱するを治す。  
 (余曰く五労七傷は後世醫の妄語なれども結核性疾患を意味するものにして消渇は糖尿病なり帶下は子宮出血、白帶下の総稱にして手足寒熱は手足煩熱の誤りなり。)  
下焦結熱し大便を得ざるを治す。 

千金翼 
腹痛脹満、卒急に発するを主り解散す。  

外台秘要
黄疸、身體面目皆黄なるを治す。 

肘後百一方 
悪瘡三十年愈えざる者には大黄、黄ごん、黄連を散と為し瘡を洗い浄め之を粉す日に三度差えざるは無し。  

醫林集要 
咳逆、大便軟利する者を治す。 

和剤局方 
丈夫婦人の三焦積熱、上焦熱あれば眼目を攻衝して赤腫、頭項腫痛し口舌瘡を生ず中焦熱あれば心膈煩躁、飲食美ならず下焦熱あれば小便赤渋大便秘結す五臓倶に熱すれば即ち廱?瘡を生ずるを治す及び五般の痔疾、糞門腫痛或は鮮血を下すを治す(中略)小児の積熱亦之を服するに宜し。 
 (余曰く以上の諸症皆悉く炎性充血の然らしむる所なれば本方能く之等を治するなり。)  

三因方 
骨の實極熱、耳鳴、面色焦枯し隠曲して膀胱通ぜず牙歯脳髄苦痛、手足酸疼し大小便閉じるを治す。 

聖済總録 
急労、煩躁羸痩、面色萎黄、頭痛眼澀し多困少力の者は煉蜜にて丸し服す。  

衛生實鑑捕遺 
煩躁発熱、胸中煩悶し或は已に汗解を経て内耗、胸中煩満し其の證虚ならず實ならざれば活人三黄瀉心湯を用ゆ。 

古今醫統 
遺精熱ある者を治す。 

名醫方考 
心膈実熱、狂燥面赤の者を治す。 

活人書 
傷寒六七日、胃中燥屎あり大便難、煩躁、譫語目赤、毒気閉塞し流通するを得ざるを治す。  

幼科発揮 
諸驚熱を治す。  

痘證實筏 
痘瘡には胃實聲唖の者あり必ず口渇熱盛にして大便秘結し其の瘡起発を缺くに宜し。  
又大便閉結、脹悶し痘発するに斉しからず並に起脹せず形色赤紫なるには三黄湯を用い以て之を通ずれば則ち痘起り易く而して色順に転ず。  

保赤全書 
麻後の赤白痢、裏急後重し身實なるを治す。 

松原家藏方 
卒倒人事を知らず心下痞堅、痰喘急迫する者を治す。 
卒倒口噤して人事を知らず手足逆冷、脈沈遅なる者、或は狂癇、癲癇、皆之を主る。

大塚敬節
三黄瀉心湯は、顔面紅潮、のぼせ、めまい、気分のいらつき、不眠などのある患者で、便秘の傾向があり、みずおちがつかえる気分のあるものに用いる。そのため、諸種の出血、高血圧症、神経症、常習便秘、胃炎、胃潰瘍、脳出血などに、しばしば用いられる。

医聖方格
吐血、衂血、諸血症にして其の人心下痞鞭し、欝々として熱煩し、大便鞭く、劇しき者は舌黄にして面目赤し。瀉心湯之を主る。

外台秘要
黄疸、身体面目皆黄なるを治す

医林集要
咳逆して、大便軟利する者を治す。

名医方考
心膈実熱し、狂躁して面赤き者を治す。

痘瘡宝筏
痘瘡には、胃実し、声唖する者有り、必ず口渇し、熱盛にして、大便秘結し、其の瘡起発を欠く。三黄湯に宜し。又大便閉結し、脹悶し、痘発すること斎しからず、並に起脹せず、形色赤紫なるは三黄湯を用ひて、之を通ずれば、則ち痘起り易く、而して色、順に転ず。

藤平健
心窩部がつかえる、胸の中が何となく苦しく落ちつかない、首から上に血液が充満したようでのぼせて気持悪いなどの自覚症状と顔面紅潮、眼の充血、狂状などの望診的他覚症状あり。

小倉重成
脳充血傾向、便秘、腹部胃部の痞塞感、精神不安、心悸煩悶、一般出血傾向(吐血。衂血)。

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