諸家知見
方極附言
漏下、腹中痛及び吐血下血の者を治す。
按ずるに凡そ吐血、下血、諸出血の者を治す。男子と婦人を別たず。
(余の経験によれば本方は吐血よりも寧ろ下血を主治す。)
方機
漏下する者。
産後の下血絶えざる者。
下血、吐血止まざる者(解毒散)。
腹證
方中に芍薬、甘草あるを以て腹診上直腹筋攣急を認むと雖も他の原因によるものと異り血に因するものなれば其の攣急は左側に限れり故に桂枝茯苓丸證に似たるも彼の如く桂枝を有せざれば上衝の候なく茯苓あらざれば心悸、心下悸、肉潤筋?の症なし又彼の桃仁、牡丹皮を有すると異り当帰、艾葉を含むが為め彼の比較的實證性血を治するに反して陰虚性血を主治す故に腹部は彼に於けるが如く實ならず一般に軟弱無力にして臍下に血塊ありと雖も亦軟弱微小なり然れども地黄を有するを以て煩熱著しく且つ臍下不仁の症あり加ふるに阿膠あるが為め脱血を治すること頗る有力なり。
方與睨
妊娠下血一應の者は其の下るに任じて可なり如し。止まざるは名けて漏胞と曰ふ。此の症、胞乾き子死せんこと恐るべし、又妊娠中忽然として下血する者あり、速に治せざずんば必ず墜胎を致さん、以上二症は緩急勢を異にすと雖も並にきゅう帰膠艾湯に宜し。
さて此の湯は唯下血のみならず妊娠雑症に効用甚だ多し、千金巻の三、妊娠諸病篇に之を引て曰く、妊娠二三月より上って七八月に至り其の人頓仆失踞失、胎動安からず、腰腹を傷損し痛で死せんと欲し若くは(胎児)見るゝ所あり及び胎奔上して心を槍き短気するを治するの方と又數々墜胎する者には吾が師此れを以て保孕の薬と為す。(余曰く本方の傷胎、墜胎に効あるは二説の如し然れども上記腹證あるにあらざれば之を輕用すべからず。)
妊娠腹中痛とは下血にして腹痛あるなり此の症に膠艾湯を用ゆること千金注に明なり。
(湯本曰く本方は下血して腹痛あるを治するは無論なれども下血なしと雖も其の腹證あるときは亦能く腹痛を主治す偏執すべからず。)
明の薜(へい)立齋曰く大産は栗熟して自ら脱するが如く小産は生にて之を採り其の皮殻を破り其の根蔕を断つが如きなりと、半産後、下血絶へざるの症ある所以なり、然し大産後にも下血絶へざるは有ることなり、凡そ血を治するには其の色を看せよ、紫は舊血なり此れは其の下るに任じて可なり、紅は新血なり亟(スミヤカ)に止澁の策をなすべし、然れども紫なるもの既に盡くれば紅なるもの必ず之に繼ぐ紅なるもの盡くれば淡になるは必然の勢なり、斟酌して治療すべし。如し血、屋漏水の如く沈黒にして紅ならず或は来り時に断へ、或は水の如く或は塊あり淋瀝して休まざるは虚候なり、誤て寒涼の薬を與ふべからず、如し脈浮脱ならば附子を用ゆべし此の方を千金巻の三に載せて大膠艾湯と名く、方後に云ふ婦人産後、崩漏、下血過多にして虚喘死せんと欲し腹中激痛、下血止まざる者を治するの神方と此の主治詳明、却て原論に超ゆ。
類聚方廣義
〇妊娠顛躓して胎動心に冲し腹痛腰股に引き或は胎痿縮状を覚え或は下血止まざる者には此の方を用ゆべし胎殞(イン)せざる者は即ち安し若し胎殞する者は即ち産す。
〇腸痔、下血綿々として止まず身體痿黄、起きれば則ち眩暈、四肢力なく少腹刺痛する者を治す若し胸中煩悸、心気鬱結して大便燥結する者には瀉心湯、黄連解毒湯を兼用す。
〇血痢止まずして腹満熱實症なく唯腹中挈痛、唇舌乾燥する者には此の方間々効あり。
(湯本曰く腹痛腰股に引き或は胎痿縮状を覚え身體痿黄、起きれば則ち眩暈、四肢力なく腹満熱實症なきは本方を用ゆるの眼目なり精思すべし。)
〇婦人妊娠毎に堕胎する者あり産する毎に育たざる者あり若の症の人は始終此の方を服し五月以後は嚴に枕席を慎み以て不育の患を免るべし若し浮腫小便不利する者は当帰芍薬散に宜し。
(湯本曰く流産癖の原因多端なり右の腹證あるにあらざれば本方を用ゆべからず。)
勿誤薬室方凾口訣
此の方は止血の主薬とす故に漏下胞阻に用ゆるのみならず千金外台には妊娠失仆傷産及び打撲傷損、諸失血に用ゆ千金の?帰湯、局方の四物湯は皆此の方を祖とすれども阿膠の滋血、艾葉の調経、之に加ふるに甘草の和中を以てして其の効妙とす、是を以て先輩は四物湯は板實にして霊ならずと云ふなり。
古方薬嚢
婦人妊娠中夥しく出血ありて、腹中大いに痛む者、又は所謂永血とて経水月を過ぎてやまざる者、此場合腹は痛む者もあり、痛まざる者もあり。
和田東郭
臨床的効果は四味(川きゅう、当帰、阿膠、艾葉)による古型のきゅう帰膠艾湯の方が優れている。
矢数道明
虚寒証の出血、もしくは貧血があって更に血の証があり、左腹直筋の肇急。腹部は一般に軟弱無力で下腹部に知覚鈍麻、四肢煩熱、下腹の痺痛等が目標。
小倉重成
子宮出血、特に長期に亘る出血傾向、その他の諸出血例えば痔出血、腸出血、尿道出血、打撲出血、貧血状態、腰痛、流産癖、下肢寒冷、易疲労、無熱。
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