甘草麻黄湯(かんぞうまおうとう)

傷寒論・金匱要略条文

【金匱・水気病篇】
裏水、越婢加朮湯之を主る、甘草麻黄湯亦之を主る。

諸家知見

為則
水病にて腫脹し、或は喘し、或は汗出で、或は汗無き者は之を主る。

方極
喘急促迫、或は自汗、或は汗無き者を治す。

和田正系
喘息甚だしく、口渇、発汗等の無き発作の場合に有効である。

矢数道明
喘息で全身特に上半身に浮腫を伴い呼吸困齢難のものに良い。 

南涯氏
金匱要略註防己茯苓湯絛に曰く  
此症は(中略)故に四肢先ず腫れて身腫れず麻黄の之く所と異る麻黄は身腫れて四肢に及ぶ者なり。
同防己黄耆湯絛に曰く  
凡そ防己の之く所は虚腫にして下より起こるなり麻黄の致す所は實腫にして上より起こるなり。

類聚方廣義 
千金方に言う人あり気急を患い積久差えず遂に水腫と成る此の如き者蓋し諸皮中の浮水面目身體を攻め腰より以上腫るるは皆當に此湯を以て発汗すべし。 
金匱水気病篇に云う皮水其脈浮、外證浮腫し、之を按ずるに指を没し悪風せず其腹鼓の如く渇せず、當に其汗を発すべしと按ずるに此症も甘草麻黄湯に宜し。 

方與睨 
一男子六十歳にして上症を患う余一診して即ち甘草麻黄湯を投ぜしが之を服すること一夜汗出で煩悶して死せり後ち濟生方を閲するに曰く人有りて気促を患い積久差へず遂に水腫と成るは此を服すれば効あり但此薬表を発す老人虚人には軽用すべからずと余弱冠に當って方脈未だ妥(だ)ならず濟生を讀むにおよんで大に昨非を塊愧したりき。 

橘窓書影 
余多年苦思哮喘を治する二方を得たり風寒に感觸する者は発汗を主とす先ず桂枝加厚朴杏仁湯、小青竜湯を以て発表し表證解すれば與うるに甘草麻黄湯を以てす、寒冷?飲による者は外臺柴胡鼈甲湯、延年半夏湯等を與え其の?飲を駆除して後苓桂朮甘湯加没食子(青洲経験方)を散服せしむれば喘気大に収む是を第二法とするなり。 

余曰く師の治法は萬病倶に證に随いて方を処するにあれば喘息の治方と雖も固より一定すべきにあらざれば浅田氏処方の適する場合全然之れなしと云うにあらざれども余の経験によれば感冒に誘発せらるる者は葛根湯、大柴胡湯、桃核承気湯合方の證最も多く葛根湯、桂枝茯苓丸合方或は葛根湯、桂枝茯苓丸、大黄牡丹皮湯合方の證之に次き麻黄湯、甘草麻黄湯、小青竜湯證等は比較的稀なり又感冒に関せずして発作する者の過半は大柴胡湯、桃核承気湯合方或は大柴胡湯、桃核承気湯、大黄牡丹皮湯合方にて殆ど百発百中なれば柴胡鼈甲湯、延年半夏湯等の必要を感ぜず浅田氏は學識該博経験豊富なる名医なれば余も氏より学ぶ所多しと雖も元来古方後世折衷家なれば古方活用上往々徹底を訣くの短あり是れ氏が柴胡鼈甲湯、延年半夏湯の如き愚方を用いし所以ならん。

湯本 
余曰く麻黄は本来無汗を目的と為すものなるに諸家今自汗を云々するは何故なるか答えて曰く此自汗は桂枝湯證自汗の自然に出ると異り汗出でざるが為め病毒は洩るるに由なく鬱積の極み辛じて一絛の血路を開き自汗となりて現われしものなれば桂枝湯に於けるが如く其量多からず且つ稀薄ならざるものとす。

聖剤発蘊 
麻黄は腹証なし。されども無は有の由て生ずる所にて、絶へて無しと云うにあらず。腹部総て軟なる中に肋骨の下に附きてむっくりと手に応ずるものあり。此湯及び麻黄湯の類を与えて軟かになるあり。又却て胸中の病毒を押し出すもあり。偖此証は総身冷え汗じめじめとして片息になることあり。是れ即喘急迫する者の状なり。此証果たして肩背に凝りつめ急痛するなり。此一方ばかりにては救ひ難し。朱雀湯姑洗丸或は走馬湯の類を選び兼用し。鍼科の良工に請求ふて肩背を刺すべし。一鍼にして効を奏すること有り。或は肩背にて瀉血するを上策とす。(中略)此湯を手遅れして往々死に至る者あり(中略)偖諸麻黄の毒の肌表に見はれたる貌は皮め薄く白して其皮膚の間に水をもちたる様なり。それを麻黄にて利水して絞りて取る様な心持ちなり。医通に麻黄湯に桂枝を去て杏子湯と名づく。風水虚脹を治す。数年哮喘を持病に患い、水腫に変じたる者に甚だ効あり。腫脹全書に哮喘の証水腫となる者麻黄甘草湯を用いることあり。二方共に心得べし。麻黄にて心下を利すれば病人自ら心下の豁然たるを覚ふ。麻黄喘家の主薬と云うは心下を疎利するを以てなり。此方意を味ふるに是れ麻黄湯の由て来る所の者なり。

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