ステロイド剤

 お母さんにお母さんの姉、二人の祖母に引き連れられた4歳の女の子。一家総出の観で、何とか治してあげたいという気持がひしひしと伝わってきます。急性腎炎という名のもとに治療を受けているがあまりはかばかしくないので、と相談に見えたのです。

 発病は半年ほど前で、急に熱が出て、かぜぐらいに考えて医院にかかっていたのですが、2、3日すると急に手足や顔がむくんできて、あわててJ病院へ行ったところ、即刻入院をいいわたされ、そのまま入院してしまいました。検査の結果、急性腎炎といわれ、浮腫はまもなくひきましたので、現在通院治療に切り替え、ステロイド剤と漢方薬の柴苓湯(さいれいとう)
を服用しています。蛋白は+2を行ったりきたりで、あまり改善の兆しがなく、医師も免疫抑制剤に切りかえようかと思案中だとのことです。

 血尿もみられず、蛋白尿と浮腫症状からみますとどうもネフローゼ型のようです、それはさておき、漢方にとっては現代医学の病名などはどうでもいいことで、発病当時の様子を詳しくうかがうことにしました。

 当時の症状を詳しく話して下さいといいますと、普通のかぜのような症状で、特になにもなかったといいます。漢方を飲みつけていない人は、病気は病院任せのため、症状を詳しく観察していない傾向があります。そこで、消去法をとることにしました。一つ一つ問診していかねばなりません。

 その結果、食欲不振や便秘はみられなかったので少陽病や陽明病は否定できます。手足の厥冷や腹満や嘔吐下痢、寝んと欲すの状もみられなかったようなので、少陰病、大陰病、厥陰病も否定できます。残るは太陽病のみです。その薬方の中でも、口渇のなかったことから、五苓散(ごれいさん)越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう)大青竜湯(だいせいりゅうとう)は否定できます。発汗傾向もみられなかったところから、防已黄耆湯(ぼおいおうぎとう)などの黄耆剤や桂枝剤も否定できます。太陽病で、浮腫がみられ、蛋白尿の可能性のある処方は残るは麻黄加朮湯(まおうかじゅつとう)小青竜湯(しょうせいりゅうとう)のみとなります。

 そこで、クシャミや鼻水は出てましたかとたずねますと出ていたようだとの答えが返ってきました。その言葉をたよりに小青竜湯を差し上げることにしました。
 1ヶ月ほどすると蛋白は+−をいったりきたりするようになりました。母親がいうには、担当医は小児の腎炎はなかなか治らないものなのに他の患者に比べ経過が良すぎる、不思議だ不思議だと小首をかしげているというのです。
 その後、途中で風邪をひいたりして、再び陽性に転じたりしながらも一年半ほど続服して蛋白尿も見られなくなりました。

 ところが蛋白尿が見られなくなったら、今度はアレルギー性鼻炎です。一根多災、処方はやはり小青竜湯です。この薬方を飲んでいると症状が大変軽くてすむと母親は喜んでいます。やがて心下の水も取れてしまって、鼻炎も完全に治ることでしょう。

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 小青竜湯証の人はもともと水分代謝が悪く、心下に水分の停滞があり、かぜなどにより触発されて、これが過度になると全身にあふれ、むくみを生じ、むくみを治そうという自己防御の反応から、腎臓に負担をかけ、その結果腎炎となり、その心下の水が体表にあふれ出てくると鼻炎などの症状を呈します。また関節に流注して関節のむくみや痛みを発することもあります(症例:病名不明参照)。この女の子の場合、腎炎も鼻炎も根は一つ「心下のみず」です。ステロイド剤や免疫抑制剤とはまったく関係ありません。西洋医学の病因を無視したステロイド剤の多用には驚かされます。


「症例から見た漢方」は「漢方のものさし」「病気の本質」と読み合わせていただけば、よくご理解いただけます。