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15年程前のことです。60歳代の婦人が、5年前より咳が出て止まらないといって相談にみえました。
証(症状と体質)により、柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)を差し上げました。
すると、服用を始めて1週間ほどたったころ、婦人は驚いて電話をかけてきたのです。薬を飲んで30分くらいして吐いてしまったというのです。
「咳の方はどうですか」と尋ねますと、「今は、出ていません」といいます。「構わず服用を続けてください」と、私は云ったのですが、嘔吐をおそれて、服薬を止めてしまいました。
ところが不思議なことに、此の婦人は、その嘔吐以来、咳が全く止まってしまい、長いこと悩んでいた咳から解放されてしまったのです。
これは20年ほど前の、秋口のことでしたが、30歳代の婦人がしもやけができてこまるといって相談に見えました。毎年悩まされるので、冬になるまえにと思ってやってきた、というのです。
顔色はどす黒く、痩せて、血色もよくありません。冷えもひどいので、当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)を差し上げました。
すると、10日ほどたったころ、生理の予定日でもないのに、生理のように、塊を混じえた黒っぽい血が下り始め、驚いてやってきました。
「おそらく悪い血がくだっているのであろうから、いざとなったら漢方でお止めしますから」と、なにかあったらすぐ電話をするよう約束して、しばらくそのまま服用を続けるようにすすめました。
2週間ほど経つとひとりでに出血はとまり、1ヶ月ほどすると顔のどす黒いのがとれてきて、見違えるように、色が白くなったのです。
それ以来、この婦人は、冬になってもしもやけができなくなりました。
60歳代の男性、久留米市からの電話相談で、直接本人に会ってはいないのですが、リウマチが痛みこまっている。3ヶ月前から、病院で治療しているがはかばかしくない。痛みはかなりひどく、トイレにいくときは壁づたいにやっといくほどで、なんとかして欲しい」、というのです。
脚が冷え、汗かきやすく、口渇もなく、歳も歳なので、桂枝加苓朮附湯(けいしかじゅつぶとう)を送って差し上げました。
初めて服用したその夜、電話があり、この漢方薬を飲んで30分ぐらいすると、全身に、アリが這うような、何ともいえない感じが起こるというのです。私は、本人を見ずに薬を差し上げたので、一瞬、附子中毒かなと思い、「舌がしびれますか?、頭がのぼせてふらつきますか?、嘔吐はどうですか」と、矢継ぎ早に尋ねてみたのですが、そういう症状は起こっていません。
「ところで、痛みのほうはどうですか?」と、尋ねてみますと、「それから、さらに30分くらいすると何ともいえない感じがおさまり、それと同時に痛みの方も軽くなる」という返事です。それで、かまわず服薬を続けるようにすすめ、3ヶ月ほど経つと、痛みは全く去り、起居にも不自由がなくなりました。
漢方薬を服用するとまれではありますが、古人がいった瞑眩(めんげん)という反応があらわれることがあります。第一例では嘔吐が、第二例では下血が、第三例では蟻走感がこれにあたります。瞑眩という反応は、治癒機転が急速に現れたときに起こる反応で、一見副作用のように見えますが、それを境に急速に症状が良転します。特に附子の入った薬方では瞑眩の起こる機会も多く、証を誤ると副作用も多く現れますので注意を要します。
漢方薬を服用中、おもいがけない症状が現れてきたときは、自己判断されずに、かならずすぐに相談することが、大切です。
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