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懇意にしている婦人の娘さん、親子そろって大変深刻な様子で椅子に座っています。
娘さんの語るところによると、最近会社が忙しく無理が重なり、大変疲労を感じるようになり、病院で診察してもらったところバセドー氏病であるとの診断を受け、症状がひどいので手術しか治る見込みがないといわれたというのです。
結婚を間近に控え、手術せずに済むものならと隣の市まで足をのばし、専門医をまわって診察してもらったが、どこでも手術をすすめられ、困り果てて相談にきたというのです。
どうしても手術をしなければ治らないのでしょうかと、その目は、私の返事にすがっています。
私は、漢方でやってみましょう、多分だいじょうぶだと思いまが、万が一漢方でも駄目でしたら、そのときは手術を考えて下さい、といってよく励まし、症状を詳しく尋ねてみますと、疲労感がつよく、体重も減少し、のどがつまったように苦しく、息が切れ、顔はやや紅潮し、汗が非常に多く、ときに微熱が出、手指はふるえ、動悸がし、甲状腺はやや肥大しています。
典型的なバセドー氏病の症状です。証からいって炙甘草湯を与えたいところでしたが、下痢傾向があるので遠慮して、二段構えでいきますので少し長くかかりますよ、と断って、柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)をまず差し上げました。
3ヶ月ほどすると症状はかなり軽減し、これならと、結婚して神戸に嫁いでいきました。同薬方を1年ほど続服して、里帰りのおり立ち寄って言うには、最近腹が硬くなってきましたが大丈夫でしょうかと。
それはあなたの胃腸が丈夫になってきた証拠ですよと、待っていた本命の炙甘草湯(しゃかんぞうとう)に薬方を転じました。これを1年ほど続服して、現在、症状はまったく改善されてしまっています。
炙甘草湯は『傷寒論』にも出ている薬方ですが、『金匱要略』の<血痺虚労病篇>にも出ており、無理が重なって疲労状に陥り、気や血が十分巡らず、動悸や脈の結滞が起こってきたときにも使用されます。
この娘さんには初めから炙甘草湯をあげたかったのですが、胃腸が弱く、下痢傾向があったので、地黄のはいった炙甘草湯が胃に障るのを考慮して、遠廻りした次第です。 この娘さんにはまだ続編があります。次例の「起生転血」をお読みください。
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