本と標

 痩せた、血色のすぐれない、24歳の女性、アトピー性皮膚炎の相談で、結婚を前にしてお困りのようです。

 彼女の語るところによりますと、「もともと乾燥肌でしたが、4年程前、半年ほどレストランでアルバイトをしていて、とても忙しく、食事をする時間がまともに取れなかったり、不規則な時間に、食べれなかった分を一気にいっぱい食べたりしたせいか、胃腸を悪くし、少し食べただけで、すぐお腹がいっぱいになったり、食べるともたれたり、ムカムカしたりするので、あまり食べれず、体重も37Kgまで落ちた。しかしこのときは、病院にはかからなかった。

 それからしばらくして、発疹、痒みが出始めた。レストランで、洗い物をしていたのが自分は原因だと思う」。「それ以来、ステロイド系の皮膚科の薬をつけたりつけなかったりを繰り返す。今年の夏は目の周りや、ひじ、ひざの後ろにも発疹が出た。今は大腿の内側、内ももの乾燥がひどく、痒くて、掻くと発疹が出る。手の甲の発疹の痒みもひどく、薬をつけないと痒みで夜中目が覚めることもある

 現在S病院で貰った、かゆみ止めと乾燥を防ぐ薬をつけている。」「また、そのころから生理も止まり、半年か一年ぐらいたって産婦人科へかかった。薬をのんだ時は生理になるが、やめるとまた止まるということの繰り返しで、それに、その頃より、便秘もひどい」というのです。

 現在のその他の症状としては
食欲は普通だがもたれやすい(見るからに胃下垂タイプです)、大便7日に1行、小便1日8回、冷えると回数が増える、冷え性で寒がり、汗はあまりかかない、たまに立ちくらみがある、目が疲れ易い、肩や背中がひどくこる、いつもきつく手足がだるく感じる、唇や口の周りがピクつく、声に力がない等々です。

 まず本人がもっとも苦しんでいる体表部のアトピー症状を軽減するために
当帰飲子(とうきいんし)を差し上げました。五ヶ月ほどすると症状は八分通り改善してきました。そこで、次に病気の本体である裏(消化器)を治すために桂枝人参湯(けいしにんじんとう)に茯苓を別包として与えました。この方を飲み始めて生理も順調に来るようになり、アトピーの方もほとんど改善し、無事結婚と成りました。しかし、左足の内踝のうえのところの、掻き壊した跡の赤い斑だけは消えずに残っていました。

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 この女性の場合、体表部のアトピー症状は二次的に現れてきた症状で、病の根は裏寒(体内部の冷え)にあると考えられます。漢方では二次的にあらわれた症状を標(客)と呼び、病の根を本(主)と呼びます。もともとあった裏寒(体内部の冷え)により血流が阻害され、アトピー性皮膚炎があらわれてきたと考えられます。現代中医流にいうと寒凝血・血虚生風というところでしょうか。漢方の治療法では、先に表を治し、のち裏を治すという「先表後裏」の原則があり、また、急を要する症状を先に治すという原則があります。それでこの女性の場合も、先に表を治し、のち、裏を治した訳です。もちろん、本(根)を治すと標(枝葉)はひとりでに治ってしまう場合もあります。その見分けをするのも、漢方の重要な診断です。そして、この例のように、症状によっては薬方を二段構えにしなければならない場合もありますし、ときには、同時に二つ或いは三つの薬方が必要な場合もあります。


「症例から見た漢方」は「漢方のものさし」「病気の本質」と読み合わせていただけば、よくご理解いただけます。