|
小学6年生の男の子、体格はよく、目は吊り上り、ラグビーをしているとかで、見た目は健康そう。相談内容は、1月に1度くらい起こる喘息です。母親にいろいろ容態を尋ねても、余りはっきり要領を得ません。ただ、しかられたとき、発作がおこるような気がするという母親の言葉を頼りに、発作が起こったときに必ず電話して下さいよと念を押し、柴朴湯(さいぼくとう)を差し上げ様子を見ることにしました。
ある日、夜8時頃、その祖母から電話がかかり、今、五島に遊びに来ているのだが(夏休み中)、発作がおこったので電話をしたといいます。いろいろ尋ねたあげく、聞き出した要点は、体温は38度弱で、すこし汗ばんでおり、喘鳴と咳嗽、呼吸困難があり、口渇はなく、朝は食欲にも異常はみられなかったということです。その夜は救急病院で点滴のお世話になり、翌日すぐ帰宅して、薬を取りにきましたので、桂枝加厚朴杏仁湯(けいしかこうぼくきょうにんとう)を差し上げました。これを3ヶ月ばかり飲んでまったく発作を起こさなくなり、この子もいまでは既に社会人となり、結婚して、一家の主人としてがんばっています。
背の低い、痩せた顔色の悪い婦人、言葉が御不自由で筆談により聞き出し得た内容です。4ヶ月前、お産をし、産褥中、風邪を引き、その後喘息となり、治療を受けているが、発作が絶えない。体重も9kg減少し、現在35kgしかない。其のときの風邪の様子は、それほど大した熱ではなかったが、食欲が減じたといいます。
親しいお客さんでしたので、お腹を見せていただくと、筆に朱を含ませて振りかけたように、点々と腹一面に赤い斑点があります。隆起はまったくありません。私にはこれが何に由来するのか、わかりませんでしたが、とにかく証にしたがい、柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)を差し上げました。
これを飲みはじめて1ヶ月程すると発作は起こらなくなり、念の為、半年ほど服用して廃薬しました。廃薬する少し前、気になっていたお腹を見せていただいたところ、腹の赤い斑点はすっかり消えていました。 血(おけつ)必ずしも血剤の専用ならずと勉強させられた一例でした。
西洋医学的にいえば、どちらも同じ喘息ですが、漢方的には、前者は、体表の皮膚の汗腺機能が低下しているため、肺の働きも衰えて、肺に水分が停滞した病状で、桂枝加厚朴杏仁湯証という病気ですし、後者は風寒の邪が半表半裏(表と裏の中間)まで進んだもので、柴胡桂枝乾姜湯証という病気です。もっと簡単に病位を言い換えますと、前者は表証(太陽病)で、後者は半表半裏証(少陽病)「です。現代医学では同じ病名でも、起こって来た病位・病因が異なっていますので、病因を治すことに主眼をおく漢方では当然薬方が異なるのです。漢方は病因即病名且つ治療法であり、結果的に病名をつける西洋医学とは一味ちがいます。
|