病名不明

 約15年ほど前のことです。
 痩せた、顔色のあまり良くない、30才代の婦人が福田より相談に見えました。

 婦人が語るには、発病は3日前で、夜間布団に入ると右肩胛骨から腕にかけて強い痛みが起こり、主人に座布団を肩に当ててもらったり、氷枕で冷やしてもらったり、一晩中眠れず大変であった。翌日、あわててM病院に行って診察を受けたところ、病名不明で、早速研究班を組んで治療に当たるので即刻入院するようにと言われた。しかし、まだ小さい園児がいて、とても入院などできないので、どうしたものかと思案していたところ、Kさん
Kさんは、以前、産後下肢に浮腫と痺れ感をきたし歩行が不自由となり当薬局で炙甘草湯と黄耆桂枝五物湯をのんで治癒)からお宅を紹介されというのです。漢方でなんとかしてほしいというのです。

 そんな痛みが3晩もつづき全く眠ることもできずに苦しんだが、昼間は何ともなく、手や顔を観ると少しむくみ小便の出もやや少ないようです。何か思い当たる原因はないかとをたずねますと、「10日ほど前、少し風邪気味であったにもかかわらず、前々から計画してあったので、5月の連休を利用して家族旅行をしたが、まだ本調子でない」といいます。

 「カゼを自覚したときのどの渇きはどうでしたか」、と尋ねますと、それほどではないが、すこしのどが渇く感じでしたという答えが返ってきました。

 そこで、病、溢飲によるもの
(溢飲とは、もともと胃腸が弱くて胃内に停水のある人が、風邪を引いたために、その停水が衝動されて体表に浮かび、関節や筋肉に流注して浮腫や痛みをなす病)として、小青竜湯加石膏湯(しょうせいりゅうかせっこうとう)を3日分差し上げました。 

 3日後再来して、痛みは殆ど治まったといいます。そこでさらに、同薬方を1週間分、これで痛みは完全になくなったのですが、手首から先の軽いむくみとしびれ感
がとれません。そこで同薬方を更に2週間分差し上げました。それでもしびれはとれないのです。

 これほど肩の痛みに劇的に効いたのに手首のしびれに効かないのは変です。これは再考してみる必要があると考え、手首のしびれは他の時にもなかったかと尋ねてみますと、「産褥中、風邪を引いて手がしびれたことがある」という答え。そこでこの手首のしびれは肩とは別の病気で、血痺
元々貧血している人が、風邪を引いて、そのために水や血の巡りが悪くなって痺れがおこる病とみて、黄耆桂枝五物湯(おうぎけいしごもつとう)当帰・ジンギョウ各3g(当帰・ジンギョウを別包として与えたのは風邪を去る力と貧血を補う力を増強するためですを差し上げました。これを3週間飲むと、手首のしびれもとれてしまいました。検査前で、病名がわからなくても治れば相談者は喜んでくれます。

☆         ☆         ☆

 急に起こった病気は、以外に短期間で治るものです。現代医学的には、まだ検査前で、病名不明であっても、漢方では、その体質と、起こって来た病因をあきらかにするとそれだけで十分なのです。漢方は病名を治すのでもないし、結果として現れてきた局部症状だけを治すのでもありません。
  その病気をおこしている体質や病因をを治すと、結果として現れてきた症状はひとりでに治るのです。
“漢方は根本療法である”といわれるゆえんはここにあります。


「症例から見た漢方」は「漢方のものさし」「病気の本質」と読み合わせていただけば、よくご理解いただけます。