按ずるに此方金匱に出る処五ヶ處あって腎元の水を潤し亢極の火を制するものなり、就中虚勞門に於て「虚勞腰痛少腹拘急小便利せざる者八味丸之を主る」とあり、虚勞腰痛は腎気虚して腰の気怯きものなり、少腹拘急小便利せざる者は腎気虚して膀胱の気化せざる也。或は小腹不仁と云ひ或は消渇と云ひ或は婦人転胞と云ふもの皆腎気虚して下焦の気守りを失ひたるものなり。又此方腎中の水を潤すと云へども腎水不足すれば水中の陽も亦従て虚す故に此方八両の乾地黄を以て火を瀉し水を救ひ一両の桂附を加へて真陽を保つ又乾地黄の寒滞を制し重きを行らすの意あり故に陰虚して火動する者早く此方を用ゆべし。亢極と云ふになりては治せぬもの也。又宗に至て銭中陽、小児先天の腎気を補はんと欲して此方の附子肉桂を去て熟地黄を用ひて六味丸を製す。是より後八味丸と称する者皆熟地黄を用ひて誤る事久し、此れ仲景の原方の意を曽って知らざるものなり。此方陰を潤し火亢を制する事を不暁して六味丸を以て壮水の剤とし八味丸を以て陽虚補火の剤とするものは仲景の意とは大に違へり。又張介賓澤瀉茯苓を論じて此れ利水の薬にて補腎の剤に入ると云へども至極腎気の虚したる者には宜しからずとして此の二味を用いずして左帰丸右帰丸の二方を製す。然るに仲景此の二味を用ゆる者腎虚するや必ず腎に邪水あり故に此の二味を用ひて地黄山茱萸を引て下焦腎に帰し且つ腎の腐水を瀉すると云ふ仲景の妙意也。此れ張介賓も仲景の意達せざるは穿鑿と云ふべし。従ひ用ゆべからず。又八味丸を腫脹に用ゆるものは腎気不足の人其の脉沈にして惟小腹脹満して下焦に腫れ多きものに用ひて甚だ効あり。
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