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リヤプノフ関数

まずはリヤプノフ関数の正確な定義からしたいところですが、 その前に、大切な近傍という概念を導入します。

定義 4.1   $ n$次元空間$ \bm{R}^n$の部分集合$ U$が、$ \bm{x}_0$を中心とするある半径 $ \epsilon \ (>0)$

$\displaystyle B_{\epsilon}(\bm{x}_0) = \{ \bm{x} \in \bm{R}^n ; \vert\bm{x} - \bm{x}_0\vert < \epsilon \}$ (4.84)

を含む、つまり $ B_{\epsilon}(\bm{x}_0) \subset U$である時、 $ U$$ \bm{x}_0$近傍であるという。

この定義において「ある半径」となっているのは、$ \epsilon$を頑張って小さ くとって $ B_{\epsilon}(\bm{x}_0) \subset U$と出来るなら$ U$は近傍 だと認められる、という意味です。

ここでは$ n$次元空間$ \bm{R}^n$と一般的な距離 $ \vert\bm{x} - \bm{x}_0\vert$ を使って定義しましたが、一般的には位相空間$ X$と距離 $ d(\bm{x},\bm{x}_0)$ によって定義するのが普通です。

さて、それではリヤプノフ関数の正確な定義をしましょう。

定義 4.2   $ R^n$上の微分方程式 $ d\bm{x}/dt = \bm{f}(\bm{x})$が平衡点$ \bm{p}$ を持つとする。 $ V(\bm{x})$が、
  1. 平衡点$ \bm{p}$の近傍で$ \bm{x}$により一階微分可能($ C^1$級)。
  2. $ \displaystyle V(\bm{x})>V(\bm{p})=0 $ かつ $ \displaystyle \dot V(\bm{x}(t))
= \frac{\partial V}{\partial \bm{x}}
\cdot \bm{f}(\bm{x})
= \sum_{i=1}^n \frac{\partial V}{\partial x_i}
f_i(\bm{x}) \le 0 $
という条件を満たす時、関数$ V(\bm{x})$はリヤプノフ関数であるという。

$ V(\bm{p})=0$は成り立つ必要はありませんが、ここでは簡単のためにそうし ました。

リヤプノフ関数を使った、解の安定性について次の定理が成り立ちます。

定理 4.1   平衡点$ \bm{p}$のについて。
  1. $ V(\bm{x})$はリヤプノフ関数であるなら平衡点$ \bm{p}$は安定。
  2. $ V(\bm{x})$がリヤプノフ関数になるための条件の二つ目が、 $ \displaystyle
\dot V(\bm{x}(t)) < 0 \ \ \ (\bm{x} \neq \bm{p})$ と出来るなら、$ \bm{p}$は漸近安定。
  3. $ \displaystyle
\dot V(\bm{x}(t)) > 0 \ \ \ (\bm{x} \neq \bm{p}) $ ならば、平衡点$ \bm{p}$は不安定。
    $ V$はリヤプノフ関数ではない)

安定、不安定の条件を満たすことを言えば良い。

証明 4.1  

$ \dot V \le 0$であるので、解曲線は $ V(\bm{x})=c,\ ({}^{\forall}c>0)$ という閉曲線を外から内に向かって通ります。平衡点近傍の全ての$ \bm{x}$について これが成り立っているのだから、これは安定性の条件を満たす。

また、 $ \dot V < 0$ならば、$ V$は単調減少で下に有界だから極限が存在します。

$\displaystyle \lim_{t \to \infty} V(\bm{x}(t)) = a$ (4.85)

もし$ a \neq 0$なら、$ \bm{x}(t)$ $ t \to \infty$において $ V(\bm{x}(t))=0$ 上にあることになります。その時、 $ \dot V \to 0$となります。しかし、 これは $ \dot V < 0,\ \bm{x} \neq 0 $に矛盾。つまり、$ a = 0$となります。

これで漸近的安定の条件を満たすことの証明が出来ました。

どんな点$ \bm{p}$の近傍をとっても $ V(\bm{x_0})>0,\ \bm{x_0} \neq 0$がある ので、これを出発とする解は$ \dot V >0$なので、0には近づけません。

これは不安定な平衡点であることの条件を満たしています。

この、不安定であるための条件は強すぎで、もう少し弱めた条件でも 不安定な平衡点が見つかります。それは次の チェタエフの定理(Chetaev's Theorem)によって示されます。

定理 4.2   チェタエフの定理(Chetaev's Theorem)
$ \Omega$$ \bm{p}$の近傍とする。次の性質を満たす領域$ \Omega_1$$ x$で一回微分可能($ C^1$級)な関数$ V$が見つかると、$ \bm{p}$は不安定である。
  1. $ \partial \Omega_1 \cap \Omega$において $ V(\bm{x})=0$ (ただし、 $ \partial \Omega_1$$ \Omega_1$の境界である。)
  2. $ \partial \Omega_1 \ni \bm{p}$
  3. $ V(\bm{x}) > 0,\ \ \dot V(\bm{x}) > 0,
\ \ \ (x \ni \Omega_1)$
    $ V$はリヤプノフ関数ではない)

証明 4.2  

安定性の定義が、満たされないことを言えば良いのです。

$ B_{\epsilon}(\bm{x})$を考えます。二つ目と三つ目の仮定から、 $ {}^{\forall}\bm{x_0} \in \Omega_1 \cap B_{\epsilon}(\bm{x})$ において、 $ V(\bm{x}_0)>0$となります。

この領域では $ \dot V(\bm{x})>0$であるから、解 $ \bm{x(t \ ; \ \bm{x}_0,t_0)}$ $ {}^{\forall}t$にわたって(この先ずっと)、この領域に留まることは 出来ず、有限時間後にはこの領域から逃げ出してしまいます。

また $ \partial \Omega_1 \cap B_{\epsilon}(\bm{x})$において $ V(\bm{x})=0$ であるので、解は $ \partial \Omega$の部分を通って逃げることは出来ません。 $ V(\bm{x}_0)>0,\ \dot V(\bm{x})>0$なので$ V$は決して0にはなれないからです。 つまり、解は $ \partial B_{\epsilon}(\bm{x})$を通ってこの領域の外へ出ます。

以上より、安定性の定義が満たされないことが証明できました。

これで証明はOKですが、この定理に私は最初、次の二つの疑問を持ちました。

  1. 解は $ \partial B_{\epsilon}(\bm{x})$を通ってこの領域 $ \Omega_1 \cap B_{\epsilon}(\bm{x})$の外に出る、とあるが $ B_{\epsilon}(\bm{x})$の中で、$ V$が無限大に発散する可能性はないの だろうか?
    $ \dot V >0$なので、$ V$が無限大に発散するのは自明だけれど、 $ \bm{R}^n$のどの場所において発散するかは分からないのではないか?
  2. $ \partial \Omega_1 \cap \Omega$において $ V(\bm{x})=0$とあるが、 $ \partial \Omega_1 \cap \overline{\Omega}$において $ V(\bm{x})=0$ が言えないなら、そこから解が逃げ出し、また平衡点へ舞い戻る事も 起こり得るのではないだろうか?
    $ \overline{\Omega}$$ \Omega$の補集合。)

一つ目の疑問は、安定性の定義を考えれば直ぐに解決できます。

安定性の定義は、「 $ {}^{\forall}\epsilon$に対し〜」でした。つまり、 ある$ \epsilon$において $ B_{\epsilon}(\bm{x})$の中で、$ V$が無限大に発散 しても、十分小さい$ \epsilon$を取れば($ \epsilon$はいくらでも小さく取れ る!)、 $ B_{\epsilon}(\bm{x})$の外で$ V$が無限大に発散するように出来るの です。そのような$ \epsilon$について成り立たないなら、当然 $ {}^{\forall}\epsilon$に対し成り立つはずはなく、よって安定性の定義を満た さないのです。

二つ目の疑問は、$ V$が一回微分可能、つまり連続関数であることが分かれば 解決できます。

$ V$は連続関数であるので、曲線 $ V(\bm{x})=0$には「切れ目」がありません。 領域$ \Omega_1$の外に出なければ$ \dot V < 0$には成り得ないのですから、解が 平衡点へ舞い戻る可能性はありません。


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taka 平成18年6月16日